野村:よくプロデュース公演とか公共ホールの制作の公演とかで聞くのは、やっぱり、誰か「親方」がいて、演出家が立ったとしても、プロデューサーだったり、スタッフだったり、誰か権力者というか、梃子でも動かない人がいて、その人の意向にそって進んでしまう部分がある、そういう政治があるんだ、というようなことを耳にしていたので。すごい警戒心というか、「ちゃんとやらなければならない」という集中を持って、現場に向けてプランをしたんですけど、全然そんな心配はなかったというか。北九州の劇場にそういう文化があるのか、なんなのか。 能祖:んー、なんなんだろな…。比較的今回のメンバーが若かったというのもあるだろうし、自分が面白がりたい、ていう気持ちがあったんだと思うんだよね。それが強いかな。 あと、いま野村さんがいったような創り方というのは、今までの創り方でいえばオーソドックスな創り方なんだけれども、どうしたってストレスはかかるじゃん。当然。だけど、今回そういう意味でのストレスはなかったんじゃないかなと思うんだよね。そんなことなかったかな。 松井:うーん… 野村:ないんじゃないかな… 能祖:ものが決まらないことの不安はあったかもしれないけど、なんか、そこまで含めて楽しんでたんじゃないかなと。最終的に初日の日程は決まってて、ものは決まらないといっても幕はあけなきゃいけないわけだから、そこは信じてるわけだから、どこまでギリギリまでやれるか、てことだったと思うんだよね。 松井:どちらかといえば不安というか、なんか、どんどん枠が決められていって、「あなたが動けるのはここまでですよ」っていうのをどんどん決められていくようなつくりなんじゃないかな、ていうふうに、全然知らなかったから、勝手にそういうふうに思っているところがあって。でもなんか、今回本気でそのストレスがなくて、ともかく、演劇について、考えていって、どこまで細かく考えたか、ていうことを相手に提示できれば、それは、そのことで信用してくれる、ていう、なんかそういう進み方だったから、こっちとしては、とにかく真剣にどこまでもやるしかない、ということで、いい意味でのプレッシャーはあったけど、それ以外のストレス、てのが全くなかったというのはびっくりしました。 野村:だから、条件が枷になるというよりは、もしこの公演でできなかったことがあるとしたら、それはもう、我々のこのチームとしての限界点にそれがあるだけで、それ以外の要因で、作品がしぼんだり、というようなことは、少なくとも起きていないんじゃないかな、という感触はありますよね。みんな満足できるというか。 能祖:松井さんにさ、たぶん縄張り意識がないからじゃないかな。ここは演出として、とか自分に縄張り意識があると、みんなそれぞれ縄張り意識をもっちゃうから。そこがさ、ゆるやかに包んでいくからさ、みんなそこで自由にいられる、というのはあるかもしれない。 松井:なるほどねー。 野村:わりとそれは松井さんのパーソナリティというか。とにかく人の話を聞くというか。 能祖:そうそうそう、打ち上げの席で冗談で「オーラのない演出家です」とか言ってたけど(笑)。 松井:(笑)なんだろね。実際、単純に僕は、自分の頭のなかで出来上がるものに高が知れている、てのがまあどっかにあるんですよ。で、人が知ってることとか、もってるものに飛びつきたいというか、それを餌にしたいんですよ。ある意味パクリたいんですよ。その人が面白いと思ってることを。でパクった上で、自分の分子というか、そういうものと結びつくかどうかを知りたいし、結びつかない場合もあるな、みたいな感じなんですよ。だから僕はそこはね、逆に楽なんですよ。楽っていうのも変ですけど。 野村くんもこのことを考えてくれるだろうし、そのことについて意見を交わしたときに、こういう意見を言ってくるかもしれないけれども、僕はこう思う。2つの見え方が見えたときに、なにが問題かが見えてくる。明らかになる。そっちのほうが手っ取り早いんですよ。いくつかの判断材料があると早い。 野村:要するに両目と同じですよね。1個の目でみると位置がわからなくなるけど、2個の目があるから、問題ここにあるのね、みたいな。そういう感じはあるんですよね。 能祖:…百目だね。 松井:(笑) 野村:そう。メンバー全員入れたら百目なんですよ(笑)。演出の人が一人でやってると、どうしても縄張り持たざるを得ないんだけれど、僕は「ドラマターグ」ってことでとっかかりになって、1が2になった途端に3も4も同じになるというか、メンバー全員に一種の文化というかそういう磁場ができやすい、という。 (つづく)
by hakobune2010
| 2010-04-27 07:18
| 『ハコブネ』全公演を終えて
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